「個人事業主でも建設業許可は取得できるのだろうか?」と疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。結論からお伝えすると、個人事業主や一人親方であっても建設業許可を取得することは可能です。法人と同様の要件を満たせば、問題なく許可を取得できます。
本記事では、個人事業主が建設業許可を取得するための基本要件や申請資格について詳しく解説します。許可取得を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
個人事業主が建設業許可を取得できる法的根拠
個人事業主でも建設業許可を取得できることは、建設業法で明確に定められています。建設業法では、許可の申請者を「法人」と「個人」に分けて規定しており、個人事業主も申請資格を有しています。
実際に、多くの個人事業主や一人親方が建設業許可を取得して事業を展開しています。個人事業主であっても、法人と同じ要件を満たすことができれば、建設業許可を取得することが可能なのです。
建設業許可を取得することで、「軽微な建設工事」の範囲を超える工事も請け負えるようになります。具体的には、建築一式工事であれば1件あたりの請負金額が1,500万円以上、または延べ面積150㎡以上の木造住宅工事や建築一式工事以外であれば1件あたりの請負金額500万円以上の建設工事を受注できるようになります13。
個人事業主が満たすべき6つの許可要件

個人事業主が建設業許可を取得するためには、以下の6つの要件を満たす必要があります。
- 経営業務の管理を適正に行うに足りる能力
- 営業所技術者を設置する
- 誠実性がある
- 安定して財産がある(財産的基礎)
- 欠格要件に該当しない
- 適正な社会保険への加入
これらの要件は法人・個人を問わず共通のものですが、個人事業主の場合は自分自身が「経営業務の管理責任者」や「営業所技術者」の条件を満たしていれば問題ありません。
それでは、各要件について詳しく見ていきましょう。
営業務の管理を適正に行うに足りる能力の要件と証明方法
営業務の管理を適正に行うに足りる能力とは、常勤役員等のうち1人が、建設業の経営に関して一定の経験を有していることです。個人事業主の場合、基本的には本人がこの経験を有している必要があります。
建設業の経営に関して一定の経験を有していると認められるためには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
- 建設業に関し、管理責任者として5年以上の経験がある
- 建設業に関し、管理責任者に準ずる立場で5年以上経営業務の管理を行った経験がある
- 建設業に関し、管理責任者に準ずる立場で6年以上管理責任者を補佐する業務を行った経験がある
- 組織として建設業の経営に関して一定の経験を有していると認められる場合(ちょっと難しい)
個人事業主として5年以上の経験がある場合や、以前勤めていた建設会社で役員を3年経験し、その後個人事業主として2年間事業を継続している場合なども要件を満たします。
以下は、経営経験を証明するために必要な書類の一例です。
- 許可通知書(写)
- 所得税の確定申告書(写)(職業欄に建設業の記載のあるもの)
- 契約書、注文書(写)
- 確定申告書、契約書や注文書が提出できない場合は、所定様式の発注証明書(立入調査・証明者に確認がある場合があります)
- 工事請負契約書や注文書
営業所技術者の配置と資格要件
営業所技術者とは、建設工事の施工に関して一定の資格や経験を持つ者のことです。個人事業主の場合も、各営業所ごとにこの技術者を配置する必要があります。
一般建設業許可の営業所技術者になるための要件は以下のいずれかです。
- 指定学科修了者で高卒後5年以上若しくは大卒後3年以上の実務の経験を有する者
- 指定学科修了者で専門学校卒業後5年以上実務の経験を有する者又は専門学校卒業後3年以上実務の経験を有する者で専門士若しくは高度専門士を称する者
- 許可を受けようとする建設業に係る建設工事に関して、10年以上実務の経験を有する者
- 国家資格者
- 複数業種に係る実務経験を有する者
個人事業主の場合、実務経験で証明するケースが多い傾向にありますが、10年以上の実務経験の有無を証明することが難しい場合もあります。
営業所技術者の要件を証明するためには、学校の卒業証明書や実務経験期間分の工事請負契約書、注文書、請求書などの書類、保有する国家資格の合格証明書などの提出が必要です。
財産的基礎の500万円要件の満たし方
建設業許可を取得するためには、一定の財産的基礎を有していることが必要です。一般建設業許可の場合、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
- 直近の決算で自己資本が500万円以上あること
- 500万円以上の資金調達能力があること
個人事業主の場合、1の要件を満たすためには「期首資本金+事業主借+事業主利益-事業主貸=500万以上」であることが必要です。
2の要件を満たす方法としては、以下の2つがあります。
- 500万円以上の融資が受けられること(融資可能証明書で証明)
- 銀行の口座に500万円以上の資金があること(残高証明書で証明)
残高証明書は有効期限が短いため、取得するタイミングに注意が必要です。自治体によって有効期限は異なりますので、事前に確認しておきましょう。
誠実性の証明方法
建設業許可を取得するためには、「誠実性」を有することが必要です。ここでいう「誠実性」とは、「許可申請を行うものが請負契約に関して不正または不誠実な行為をするおそれがないこと」を意味します。
個人事業主の場合、以下の者が誠実性を有する必要があります。
- 個人事業主本人
- 個人事業主の支配人
- 上記が未成年者の場合は、その法定代理人
誠実性がないと判断される例としては、以下のようなものがあります。
- 建築士法、宅地建物取引業法で不正または不誠実な行為を行ったために免許などの取消処分を受けて5年未経過の場合
- 請負契約の締結または履行の際、詐欺や脅迫、横領などの違法な行為を行った場合
- 工事内容や工期、天災などの不可抗力による損害の負担などについて請負契約に違反する行為を行った場合
欠格要件に該当しないための確認事項
建設業許可を取得するためには、欠格要件(欠格事由)に該当していないことが必要です。欠格要件に該当する場合、許可を取得することはできません。
個人事業主が確認すべき主な欠格要件は以下の通りです。
- 許可申請書・その添付書類中に重要な事項について、偽りの記載がある場合・重要な事実の記載が欠けている場合
- 個人事業主本人・支配人が以下のいずれかに該当する場合
- 破産者で復権を得ない者である
- 心身の故障により建設業を適正に営むことができない者
- 不正の手段により許可を受けたことなどにより、その許可を取り消され、取り消しの日から5年を経過しない者
- 建設工事を適切に施工しなかったために公衆に危害を及ぼしたときなどに営業の停止を命ぜられ、その停止期間が経過しない者
- 禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行の終わりの日から5年を経過しない者
- 建設業法などの法律の規定に違反したことにより、罰金の刑に処せられ、その刑の執行の終わりの日から5年を経過しない者
- 暴力団員または暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者
- 暴力団員等がその事業活動を支配している者
特に注意すべきは、スピード違反や飲酒運転で執行猶予になることもあるため、交通法規の遵守も重要です。
社会保険加入の要件(一人親方の場合)
建設業許可を取得するためには適切な社会保険への加入が要件となります。
ただし、個人事業主の場合、従業員が常時5人未満であれば社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入は任意です。一人親方の場合は、国民健康保険と国民年金に加入していれば問題ありません。
一方、従業員が常時5人以上いる個人事業主は、健康保険・厚生年金保険に加入していなければ、新規に建設業許可を取得できません。
社会保険の加入状況を証明するためには、社会保険の領収書などが必要です。
知事許可と大臣許可の違いと選び方
建設業許可には「知事許可」と「大臣許可」の2種類があります。どちらの許可を取得するかは、営業所の所在地によって決まります。
許可の種類 | 条件 |
---|---|
知事許可 | 1つの都道府県にのみ営業所がある場合 |
大臣許可 | 2つ以上の都道府県に営業所がある場合 |
例えば、広島県内にのみ営業所がある場合は広島県知事の許可を、広島県と山口県に営業所がある場合は大臣許可を取得することになります。
重要なポイントは、「知事許可」と「大臣許可」は営業所の所在地による区分にすぎず、建設工事を請け負うことができる地域に違いはないということです。どちらの許可を取得しても、日本全国で建設工事を請け負うことができます。
一般建設業と特定建設業の違いと選び方
建設業許可には「一般建設業」と「特定建設業」の区分もあります。この区分は、下請け業者への発注金額によって決まります。
一般建設業は、特定建設業以外の場合で、主に元請け業者とならない場合や、下請け業者への発注金額が一定金額未満の場合に該当します。
特定建設業は、一件の工事で5,000万円以上(建築工事業の場合は8,000万円以上)を下請け業者に発注する場合に必要となります。特定建設業は一般建設業に比べて「営業所技術者」「財産的基礎」の要件が厳しくなります。また、施工管理や下請け業者に対する追加の義務・責任も生じます。
個人事業主の場合は、まずは一般建設業許可の取得を目指すケースが多いでしょう。事業規模が拡大し、大規模な工事を下請け業者に発注するようになった場合に、特定建設業許可の取得を検討するとよいでしょう。
個人事業主が建設業許可を取得する際の事務所について
建設業許可を取得するためには、「独立した営業所を設けること」という要件もあります。これは個人事業主の場合も同様です。自宅の一室を事務所として使用することも可能ですが、以下の点に注意が必要です。
- 事務所として独立した空間であること
- 事務所としての体裁が整っていること(机、椅子、書類棚など)
- 固定電話が設置されていること(自治体によっては名刺や封筒などに電話番号の記載が必要)
バーチャルオフィスについては、自治体によって取り扱いが異なります。多くの自治体では、実体のある事務所が必要とされているため、バーチャルオフィスでは許可取得が難しい場合が多いです。
事務所要件については自治体ごとに細かい規定が異なる場合がありますので、事前に許可申請先の自治体に確認することをおすすめします。
まとめ

個人事業主や一人親方でも、法人と同様の要件を満たせば建設業許可を取得することは可能です。取得するためには、経営業務の管理責任者や営業所技術者の要件を満たし、財産的基礎や誠実性の証明、欠格要件に該当しないことなど、6つの要件を満たす必要があります。
個人事業主の場合、自分自身が経営業務の管理責任者や営業所技術者の条件を満たしていれば問題ありませんが、実務経験を証明する書類を揃えることが難しい場合もあります。計画的に準備を進めることが重要です。
建設業許可を取得することで、より大きな工事を請け負えるようになり、事業の幅が広がります。また、同業者との差別化や信用力アップにもつながるでしょう。
許可取得を検討されている方は、本記事を参考に、自分が要件を満たせるかどうか確認し、必要な書類の準備を進めてください。不明点がある場合は、行政書士などの専門家に相談することもおすすめします。
当事務所では、広島市を拠点として、建設業許可に関する各種手続きのサポートを行っております。建設業許可や建設業法に関するご相談がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。初回相談は無料です。
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